2016年10月11日火曜日

BMJ掲載質的研究ガイドラインCOREQ ②―エスノグラフィーの大胆な定義





先回のブログで紹介した、BMJ掲載の質的研究ガイドライン「COREQ」。
それぞれの方法論の定義が大胆すぎてびっくりぽんなので紹介したい。

Theoretical frameworks in qualitative research include: grounded theory, to build theories from the data; ethnography, to understand the culture of groups with shared characteristics; phenomenology, to describe the meaning and significance of experiences; discourse analysis, to analyse linguistic expression; and content analysis, to systematically organize data into a structured format (p351)


これによるとエスノグラフィーは、「ある文化的集団において共有される特徴を理解するための手法」。文化人類学者では絶対できないだろう、大胆な定義にもはやかける言葉がありません…(笑)


これ、エスノグラフィーだけじゃなく、現象学の定義もすごいなと思う。「経験の意味と意義を描き出す手法」、とでも訳せばよいのでしょうか。現象学者の人、これで納得するのかな…。


でもこういうのを見ると、医療系で質的研究をする人にありがちな誤解、つまり「ある方法に則って調査を行えば、『文化が抽出できる』、あるいは『当事者の経験の内実がわかる』はず」のゆえんが見えてくる。

「文化」を描き出そう思い、エスノグラフィーの方法についての本を買って、そこに書いてある手法を1,2,3のステップでやっていけば、対象の集団に共有された文化があれよあれという間に抽出される

―なんてことはありません。


でもこんな権威ある雑誌にこういう風に書いてあれば、エスノグラフィーをやったら文化がわかると思って当然だよね。

エスノグラフィーにしても、現象学にしてもちゃんとやろうと思ったらそれぞれの方法のベースにあるモノの見方、文化人類学や社会学、哲学をある程度押さえておかないとそれなりの成果は出せないはず。

でもそこをすっ飛ばして方法の部分だけとろうとするから、上滑りな研究が量産される。

質的研究の方法について述べた書籍のほとんどは、その名前がどんなものであれ、データを意味内容別にカテゴライズする方法を教えている。でもカテゴリーを作ることは、質的研究の最終目的じゃないし、質的研究で一番難しいところはそこじゃない。


ただ方法論の本に、それ以上のことが書けないのは、質的研究とはどこまでいっても結局はデータの解釈の問題であり、それをどう意義深く解釈するかは、方法ではなく、研究者の見識にかかっているからだと思う。

そして質的研究で最も大事なその部分は、方法の本をいくら読んでも磨かれないのです。

でもみんな方法の本を読んで、方法のことばかりを指摘されて、結局だから、方法ばかりの質的研究になっちゃうんだよね…。

ちなみにデータの分類法に走らず、データの読み解き方を教えてくれているのは『エスノグラフィー入門』(小田博 著・春秋社)です。

質的研究概論IIの教科書として利用中